神戸の若手家庭医のブログ

神戸在住の30代若手家庭医が日々の生活や学びを綴るブログです。

コロナ往診はじめました

みなさま、こんにちは。

 

本日、コロナ往診をはじめました。そして今日は緊急事態宣言が拡大となりました。

それまでの経緯や、やってわかったことなど、できるだけまとめて、他の地域の方々のご参考になればと思います。

 

ちなみに、一般的には在宅医療の中で定期的に計画的に行うものを訪問診療、患者からの求めに応じて向かうものを往診と使い分けています。今回はコロナ患者に対応するための求めに応じるということで、コロナ往診と呼びます。

 

 

■開始までの流れ

 

4月30日に、神戸の現状を記事にしました。 

drmatsu.hatenablog.com

 

それからも、色々な動きがありました。

ゴールデンウィーク中にはすでに往診を始めていた中央市民の先生たちとZoomで情報交換。それらの情報をもとに、自院でのマニュアルのたたきだいを作りました。

そして上司に託し、院内の意思決定会議で病院としてコロナ往診を行うことのGoサインを得ました。

 

バイト先の在宅専門クリニックでもコロナ往診についての相談をしました。

どうやら患者さんへの説明や不安の解消に非常に時間を使うようで、オンラインで30分〜1時間くらいかかることもあるそうでした。「レムデシビルは使えないのか」など、かなり専門的なことまで突っ込まれることもあるそうです。

そこで、患者さん向けに、コロナ往診でできることとできないことをできるだけ簡潔にまとめたパンフレットを作りました。

 

(ちなみにこの頃、入院でも陽性患者の担当となりなかなかバタバタする)

 

5月10日(月)

院内のコアメンバーで会議を行いました。

診療部長、看護部長、薬剤部長、医事課長、連携室長・主任、そして在宅酸素メーカーの方にも来ていただきました。

というのも、在宅酸素を導入する際、メーカーの方々は玄関先までしか運べないことが多く(どうしてもの時は中にも入れてくれるらしい)、ある程度病院でストックし往診の際にそのまま持っていって設置するのが効率的なので、その相談をしました。

他にも、必要物品の確認や車・運転手の手配なども行いました。

 

5月11日(火)

この日は在宅に持っていく薬剤リストを作成し、薬剤部に依頼しました。

院内にあるものを選ぶことと、デカドロンの4mg規格は採用がなかったのでお願いして手配していただきました。

そして、運転できるスタッフも明日から準備はできる、と医事課長より連絡がありました。

夜に、中央市民病院の呼びかけで地域の病院・診療所などをつないだZoom意見交換会がありました。すでにコロナ往診をされている中央市民や、神戸赤十字病院、訪問専門クリニックの経験、そして保険診療とは別の枠組みで動いている訪問看護師さんの活動はとても参考になりました。

病院からの往診は応急処置が基本で、在宅酸素やステロイドは導入するが、その後のフォローに課題がある、ということがわかりました。一方、在宅専門クリニックは在宅のノウハウがあり訪問看護などとの連携や小回りのよさが強みだが、専門的治療や感染予防対策など、専門家の意見を聞きたいことは山のようにある、とのことでした。

 

5月12日(水)

急遽、夕方に市の保健所の方と区の保健センターの方(以前の医師会の集まりに来てくださっていた)を交えて区役所で会議を行うことになりました。当院も在宅を始めるということで、先方から申し受けいただいたのです。

患者情報の共有の制限など、割とぶっちゃけたところまでお話できました。

この話の中で、当院がやるべき役割もはっきりしてきました。

中央市民や神戸日赤が割と広範囲の患者さんの対応をしているのに対し、当院が行うべきなのは近隣地域の住民の対応です。すでに往診をされている開業医の先生方と同じように、治療の導入だけでなく経過のフォローや在宅での点滴なども対応できるような関わりがよいのでは、となりました。

そして、13日は僕が休みなので14日から始める、ということで決定しました。

 

帰り際の保健師さんとの会話、「私もともと子供の担当なんですけどね…」「これがおさまったらそっちでも連携していきましょうね」ってのがちょっと切なく感じました。

でも、こういうことがあるからこそ、こんなに早く保健師さんとつながることができたのは幸運なのかもしれません。前の病院では5年間勤めていたのに保健所との交流はなかなかありませんでした…

 

■やってみた

 

5月14日(金)

保健所からの連絡は連携室に一本化しています。

午前中に、患者の依頼ということで2件の情報をいただきました。

そして、神戸日赤の先生方も少し同行していただけると情報が来ました。

感染対策のため久しぶりのオペ着に着替え、バンに乗ってまずは市役所に向かいました。

 

保健センターの中も見せていただきましたが、すごい熱気でした。他部署や区の保健センターからの応援を依頼して100人を超える人数で頑張っているとのこと。「これが1年以上続いているんですよね…」これまた切なかった…

 

場所を変え、日赤の先生からやっていることの説明やマニュアルをいただきました。

そして、1件目の往診へ。日赤の診療の見学です。家の前の路地は狭いのでちょっと離れた場所に車を置きます。在宅酸素を抱えて、玄関で着替えて中に入ります。患者さんの状態を確認し、在宅酸素を設置し、薬剤をお渡しして帰る。

もともと家に入る2人+運転手でできるかな〜と思っていたのですが、家の前で待機して手伝ってくれる人がどうしても必要だと感じました。足りない物品を出したり、PPE着脱の手伝いをしてくれたり。

 

そして先生方と別れ、2軒目に。

他院で電話診察を受けた後の方だったのですが、ステロイドが効いたのか幸い改善傾向だったので、酸素も不要でした。

 

もともとこれで終わりの予定でしたが、依頼が来てもう1件。

50代の方で、基礎疾患はあってなかなかハイリスクでした。在宅酸素3LでSpO2も改善し「楽になった」とおっしゃられたものの、ちょっと怖い感じだったので地域の訪問看護ステーションに状態観察を依頼しました。

が、その後すぐに翌日の入院が決まったと判明し、結局お願いはキャンセルに。

なんにせよ入院できることはよかったです。治療の確実性が違います。

 

こんな感じで、3件。あっという間でしたが気づけばまあまあ時間がかかっていました。

そしてPPEは暑い…皮膚とナイロンの間に汗が貯まります…

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やってみて気づいた課題もたくさんありました。例えば、こんなものがさらに必要だと思いました。

 □荷物運ぶためのカート(音が出にくいやつ)
 □在宅酸素のセットを袋にまとめる(カニューラ+オキシマイザー+延長コード)
 □患者に渡す説明資料も整える
 □車内にサージカルマスク、虫除けスプレー
 □吸入ステロイドも準備する(糖尿病あり内服が難しい人、軽症の人用に)
 □生理食塩水もあったほうがよさそう(糖・カリウムフリー)

これからもやりながら段々ブラッシュアップされていくと思います。

 

そして、今は僕ともう一人出られる若手で、という体制ですが、みんなが慣れてくれば僕がいない日や時間でも出られるようになるかもしれません。

そうやって少しずつ、広まっていけばいいなと思います。

 

詳しい話を聞きたいとか、資料がほしいと言う方はご連絡くださいね!

 

 

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