神戸の若手家庭医のブログ

神戸在住の30代若手家庭医が日々の生活や学びを綴るブログです。

訪問診療、はじめました

みなさま、こんにちは。

 

前回の記事が5月14日でした。

drmatsu.hatenablog.com

 

そこから2ヶ月経ち、コロナもだいぶ落ち着いたところで、ようやく”普通の”訪問診療を始めることになりました。

といってもまだトライアルですが、動き始めたことは大きいです。

 

270床の病院での訪問診療は珍しいと思います。

どうやって進めていくのか、どのような意義があるのかなどを、書いてみました。

出来事の記録が多くそんなにまとまってはいませんが、ご参考になれば幸いです。

 

<目次>

 

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やってきたこと

入職前

僕は大学〜初期研修までを神戸で過ごしました。そして福岡での家庭医療後期研修を終えたあと、京都の金井病院に勤めていました。

そこはまさにコミュニティホスピタルで、家庭医が中心となって様々な病院機能を動かしていく、居心地の良い病院でした。

ただ、自分自身の目標として”神戸に住んでそこで家庭医を育てたい”という想いがありました。そして色んなタイミングが重なり、異動することになりました。

 

新たな勤務先を探すにあたって、条件としたのは以下のことです。

(参考:ハーズバーグの動機づけ・衛生理論とは

<衛生要因>

・通勤時間

・給与

・労働環境:週1日は外勤にしたい

<動機づけ要因>

・コミュニティホスピタルのポテンシャルがある

・自分の能力を必要としている

・上司が協力的

 

いくつかの病院はホームページを見たり、見学に行ったりもしました。

ただ最終的には、これまでに繋がった縁を頼りに、今の病院に決めました。

 

事前に科の上司となる先生や事務長と面談し、今の病院の現状や課題、自分が入ることで何を変えられそうか、ということを確認しました。

循環器に強い急性期病院ではあるけれど、近隣に強力な急性期病院が乱立する地域で、より地域密着型の運営をしていく必要があることは明らかでした。

しかも周囲には大規模な在宅専門クリニックはまだありません。

先手必勝ではないですが、チャンスはあると感じました。

 

病院としては訪問診療に携わったことがないのはもちろん、家庭医が赴任するのは初めてのことでしたので、赴任の4ヶ月ほど前に、院内の主要なメンバーに対してプレゼンテーションを行うこととなりました。自分が診た患者さんの紹介をベースに、ACCCAや教育・経営にどうプラスになるかを織り交ぜたものです。

やってみて、悪い感じではありませんでした。特に好感触だったのが看護師とMSWでした。

 

その後も何度か足を運び、いよいよ入職となります。

 

4月

初日は院内の色んな部署にあいさつ回りに行きましたが先々で「待ってました」と言ってくださってありがたかったです。 

 

1週間ほど経ったところで、地域連携室の看護師・MSWと会議を開き、訪問診療を進めていく相談をはじめました。

 

半ばには、区の医師会で活躍されている先生のところに伺い、訪問診療に同行しました。訪問診療を始めることの懸念事項の一つが医師会からの反発なのですが、現状ではその心配はなさそうでした。

 

院内の電子カルテを在宅でどう使うか、電算課の協力も必要となります。ということでそちらのスタッフともご挨拶。他院での取り組みも参考にしていきたいと話しました。

 

20日には、看護部長や医事課長も入って会議を開きました。

 

23日には、兵庫区医師会の在宅医が入っているメーリングリストに入ります。

 

月末の会議で、在宅立ち上げをワーキンググループとして設立し、経営戦略会議の直下に配置する、ということを決めていただきました。

 

と、いうことで。この時期に大切なことは以下の2つでした。

●院内のキーパーソンを見つける

 これは豊田の大杉先生もいつも言われていることですが、現状に問題意識を持ち改善を志す人は必ずいるので、味方にすることが大事です。

 それと、誰を動かせば物事が進んでいくのかを見極めることも大事です。ここは上司がすごく頼りになります。

●地域とのつながりを作る

 この病院に来て、医師11年目にしてようやく医師会員となりました。院長が医師会の幹部という強みはありますが、現場で活躍している先生とつながっていくことも大事です。

 

5月

御存知の通り、コロナ第4波が押し寄せてきました。通常の訪問診療は一旦保留で、コロナ往診のことを進めていきました。

ただそのおかげで、物品の準備や携帯電話の契約など、少しすすめることができました。

 

6月

コロナが落ち着いてきたことに加え、外来で引き継いで診ていた肺がんの患者さんがいよいよ終末期となってきて入院となり、なんとか自宅に帰したい、という状況になってきました。

幸い、歩いていけるくらい近所の方でコストもかからないため、トライアルとして始める許可を得て、行くこととなりました。

 

始めるにあたって、具体的に進めないといけないことはたくさんあります。

●医事課関係:受付、算定、請求の流れなど

●書類の準備:訪問診療や個人情報の同意書、会計の説明書など

●物品の準備:バイタルセット、処置セット、採血セットなど

●カルテ:当面は手書き→帰って入力 テンプレートの作成

 

できる限りシステム化・マニュアル化できるよう、整えていきます。

この本がとてもとても参考になりました!

 

 

7月

ついに、初回の訪問に伺いました。退院してまもなくなので当然ですが、お元気そうで何よりでした。「やっぱり家はいいねぇ」と。

 

ちなみに、当初より診療に同行する看護師の配置を依頼してはいるものの、病棟の人員不足のためなかなか人を出すのは難しいと言われていました。まだその状況は続いていますが、ありがたいことに外来や地域連携などで興味があってスケジュールが空いている看護師やMSWが同行してくれています。

 

医師一人でも訪問診療は行えるのですが、僕は多職種も一緒に行う方がメリットが大きいと考えています。

こちらの本にも、同行について書いてある章があります。多職種が同席することで、医師には直接話しにくい情報を引き出せたり、医師とは違う目線からの介入案を出したりすることができます。

 

 

今後

トライアルから本格的に動き出すには経営戦略会議での承認を得なければなりません。

そのためには、将来のビジョンを明確に示す必要があります。

「数字で示す」のは得意ではないのですが、経営企画部とも協力してやっていきたいと思っています。(アドバイスなどいただけると嬉しいです)

 

ここで気をつけないといけないのは”手段の目的化”だと思います。

訪問診療を通じて得られる価値を常に考えないといけませんね。

 

訪問診療の意義

そして、その価値ですが、シンプルにまとめると、こういうことだと思います。

●継続性

●拡張性

●教育

●経営

 

継続性

逆紹介を増やさなければならない急性期病院ですが、「ずっとかかりつけ」という患者さんもまだまだ多くおられます。

そんな患者さんにとって、外来〜病棟〜在宅とずっと関わり続けてくれる”面倒見のいい病院”というのは 魅力的ではないでしょうか。

また医師にとっても、最後まで見続けられることは充実感を生みます。

これが診療に関する継続性ですね。

 

(参考)

fujinumayasuki.hatenablog.com

 

特にコロナ禍では、看取りの際に病院での付添いが難しいこともあり最後は在宅で、というニーズも高まっています。「最後だけ在宅の先生に」よりも「最後まで同じ先生」がいいという方も多いと思います。

www.jstage.jst.go.jp

 

それともう一つ。

地域で訪問診療をしている開業医さんの多くはソロプラクティスです。高齢になっておられる先生もおられます。 そのため、診療体制はどうしても先生の体調に左右されてしまいますし、何十年先には閉院か継承か考えなければなりません。

病院だと人を集めることができるので、その心配がありません。人が増えると宅直もシフトを組むことができます。

グループプラクティスの診療所も増えていますが、それでもトップが入れ替わったときに同じことを続けていけるかどうかは難しい課題だと思います。

病院はそのあたりが強固です。

10年、100年先を見据えた医療機関の継続性というのも大事なことです。

 

拡張性

中規模病院ですが、循環器や糖尿病、形成外科など多くの専門医がいますので、例えば一緒に在宅に行ったり、画像を見てもらったりといった連携がしやすいです。

またシリンジポンプなどのデバイスの在庫も抱えやすいので、在宅癌や心不全などを診ていくにはメリットがあります。

これまで地域と繋がって活動してきた歴史もありますので、地域活動や連携を広げていくにも向いています。

 

あとは、地域の中核としての責任があるので、今回のコロナ往診のようなことも進めやすいのではないかと思います。

 

教育

これはどちらかというと病院内のスタッフにとってですが、家での生活を知るというのはとても大事なことです。外部研修に行くという手もありますが、やはり普段から関わっていた患者さんの訪問に同行するというのが最も教育的効果は高いでしょう。

 

中規模病院での退院調整看護師が感じる困難さをまとめた論文がありました。

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在宅医療では何ができて何が難しいのかについて医療者が理解して患者に提示しないと、そもそも退院先の選択肢にあがりません。そのためにはやはり経験してみるのが一番だと思います。在宅医療のシステムは複雑で、本を読むだけではなかなか理解は難しいと思います。

 

また初期研修医にも教育効果がありますし、総合診療・家庭医療の専門研修では在宅は必須です。

 

在宅専門医の研修プログラムや、総合診療・家庭医療の研修プログラムを作ることができれば、それを求めて若い情熱のある医師を集めることができます。そこに惹かれてまた新たな人材が集まるという好循環につなげることが大事でしょう。

 

経営

そして、今後縮小していく外来診療や、統廃合を求められている急性期病床などを考えても、在宅を広げていくことは経営上も必要でしょう。

前述のこちらの本にも「中小病院の生き残り戦略としての在宅医療」という章があります。機能強化型在宅療養支援病院で50人の診療を行うと年間6900万円の増収が見込めるそうです。

 

200床以上の病院では診療報酬上の利点は少ないですが、全く収益があがらないわけではありません。

先日バイトしてみたのですが、管理料を取らない訪問診療としてこのような取り組みもあります。

fastdoctor.jp

 

また、今後もずっと270床を維持していくのも困難があります。集患だけでなく、医療従事者の確保も大きな課題です。将来的にダウンサイジングを考える場合に、訪問診療ができることは大きな要素となるでしょう。

 

まとめ

ということで、ここ3ヶ月ほどの取り組みを共有しました。

吉と出るか凶と出るか。吉となることを信じて進むのみです。

 

これを続けて広げていくには、もっと多くの仲間が必要です。

神戸近辺に住んで総合診療/家庭医療をやりたいという方、ぜひ一緒に働いてみませんか?常勤でも非常勤でもお待ちしております。ぜひご連絡ください!